「うちの子、多分出てこないと思います」って言われた日、なぜかその子が玄関に現れる理由を考えて見た。
「この子、人見知りなんで…」
「たぶん今日は出てこないと思います…」
初回面談のとき、親御さんがそう言うことって、実はよくある。
たしかに、僕が突然家に来るわけだから、警戒するのは当然。
誰でも、知らない人と話すのって緊張する。
それが今しんどい状態にある子どもなら、なおさらだと思う。
でも、なぜかその子がそっと出てくることが多い。
今日は、その理由をちょっと言葉にしてみたい。
何気ない“最初のやりとり”がつくる空気
玄関に立って、ピンポンを押す。
「こんにちは〜、なすびです〜」って声をかけて、ドアが開く。
最初に出迎えてくれるのは、たいていお母さん。
少し不安そうな顔で、でもどこかホッとした表情で出てきてくれる。
「どうぞ上がってください」って案内されて、そのままリビングで話をする。最初は、完全に親御さんとの時間。
子どもが部屋の奥で、こっそり聞いてる気配は感じるけど、そっちにはあえて何も話しかけない。
「最近はどんな様子ですか?」
「夜は眠れてますか?」
「ゲーム、何やってるんですかね?」
そんなふうに、ほんとにただ話すだけ。
アドバイスとかもしない。分析もしない。
ただ、その日その場の空気で、自然に聞いて、自然に答える。
届くのは、言葉より“共感の温度”
あるお母さんが教えてくれた。
「フォートナイトとかマイクラとか…ずっとやってて…。もうずっと部屋にこもりっぱなしで…」って。
「フォートナイトかあ。あれ難しいですよね、バトロワ系のやつでしょ?
マイクラは僕もやってました。スイッチですか?パソコン版の方が僕は好きなんですけど、
クリエイティブモードで建築したり、村探したり…あれほんと楽しいですよね」
そんな話をしていたら、ふと、廊下の奥から物音がする。
気配が、少し近づいてくる。
でも、それに反応したりはしない。
そのまま、マイクラの話を続けたり、お茶を飲んだりする。
「僕も学校、行ってなかったよ」から始まる関係
僕が子どもに最初に話しかけるのは、
顔が見えて、目が合って、ちょっとだけお互いの距離が縮まった瞬間。
「こんにちは、なすびって言います」
そう言いながら、名札を見せる。
「学校行ってないって聞いたけど、僕も行ってなかったよ」って笑う。
それだけで、たいていの子は少しだけ拍子抜けした顔をする。
「え、ほんまに?」みたいな顔。
「小1から中2の途中まで、年間100日以上休んでた」
「でもね、学校行かなくても、なんとかなってる」
「たまたまやけど、やりたいことが見つかって、そこから看護師になって、
今はこうして訪問の仕事をしてるけど、別に“学校に戻すため”にやってるんじゃなくて、本当にやりたいことを一緒に見つけたいだけ。」
って、そんな話をする。
「ゲームばっかりで大丈夫ですか?」への答え
「ゲームばっかりで大丈夫ですか?」って、よく聞かれる。
その気持ち、めちゃくちゃわかる。
僕も子どもの頃、ずっとゲームしてたから。
あの時間がなかったら、自分のしんどさと向き合いすぎて潰れてたと思う。
ゲームって、ただの娯楽じゃなくて、今の自分を守る手段になってたりする。
だから、僕は「一旦やり切ってもいい」と思ってる。
極めた先に、好きなことや得意なことが見えてくることもある。
ゲームからプログラミングに興味を持つ子もいれば、
マイクラから工作にハマる子もいる。
ゲームって、今の時代の“居場所”でもある。
それをただ「やめさせる」っていうのは、僕は違うと思ってる。
それについては詳しくはこの記事を読んでいただけると嬉しい。
→「ゲームをやめさせたら登校した」って、それ本当に“成長”?
出てこなくてもいい。ただ、空気が届けば
そんな話をしてると、だいたいその子は、少しずつこっちに近づいてくる。
最初は距離をとって、壁にもたれてたり、ゲームの画面をチラッと見せてくれたり。
時には「今から一緒にやる?」って言ってくれることもある。
無理やり話しかけたわけでもない。
「出てこさせよう」と思って関わったわけでもない。
ただ、僕がそこにいて、親御さんと普通に話して、ゲームの話して笑って、
「学校行ってなかったよ」って、ほんとにそう思ってることを話しただけ。
「うちの子、多分出てこないと思います」
って言われても、僕は大丈夫だと思ってる。
出てこなくてもいい。
気配を感じてくれたら、それで十分。
子どもって、大人の言葉じゃなくて、空気で見てる。
「この人、なんか大丈夫そう」って思ってもらえたら、それで関係が始まる。
だから僕は、今日もただ、いつも通り玄関に立つ。
「こんにちは、なすびです」って言って、
いつか、扉がそっと開くのを待ってる。
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