1. 増え続ける不登校と子どもの命
「不登校の子どもは、自分を守るために学校に行かない選択をしている。」 それ自体は悪いことではないし、むしろ大切な自己防衛の一つでもある。 でも、それで本当に安全になったと言い切れるのか?
実はここ数年、不登校の子どもは過去最多に増加し、それと同時に子どもの自殺も増え続けている。
文部科学省の発表によると、令和5年度の不登校児童生徒数は34万6千人を超え、過去最多を更新。さらに、小中高校生の自殺者数は2022年に514人と過去最多となり、2024年も527人(暫定値)と増加傾向が続いている。
「逃げられているから大丈夫」 そう思いたい気持ちもわかる。でも、僕自身が不登校だった頃、何度も「消えたい」と思った経験がある。
大人が「子どもを本当に守るため」にできることは何か? 今日はこのテーマについて、一緒に考えていきたい。
2. 不登校でも「安全」とは限らない
僕自身、不登校だった頃、「ここなら大丈夫」と思える場所は正直なかった。 朝、布団の中で「今日も学校に行かないのか…」と考えながら、親の顔色をうかがっていた。
先生や友達のことを思い浮かべると、胸が締め付けられる。でも、行こうとすると体が動かない。 「今日こそは行かないと…」と自分に言い聞かせても、足は布団の中から出なかった。
そんな日が続くうちに、「学校に行かない自分はダメな人間なんだ」と思うようになり、誰にも何も言えなくなってしまった。
不登校の子どもたちは、自分を守るために学校に行かない選択をしている。 しかし、それだけでは十分ではない。
もし「安心できる場所」がなかったら、「行かない」=「一人ぼっち」になってしまう。
何もしなくていい時間ができても、「誰とも話せない」「誰も自分をわかってくれない」という孤独感が押し寄せる。
「学校に行っていない自分はダメなんだろうか?」 「周りの子は勉強をして、将来に向けて進んでいるのに…」
そういうことばかりを考える時間が増えていく。 そして、気づけば「逃げたはずなのに、余計に苦しくなる」という状況に陥ってしまう。
3. SNS時代に広がる「不安の圧力」
昔と今で大きく違うのは、「情報の多さ」だ。
SNSやインターネットの普及によって、不登校の子どもたちがつながれる環境は増えた。 ゲームやオンラインの世界で、新しい居場所を見つけられる子もいる。
でも、同時に「情報の圧力」も強くなっている。 例えば、ネット上にはこんな言葉が溢れている。
- 「このままだと引きこもりになるよ」
- 「不登校のままだと社会に適応できなくなる」
- 「勉強についていけなくなって、将来詰むよ」
こうした「不安を煽る情報」は、本人が見ていなくても、親が見て焦ることが多い。
実際、僕が関わっている子どもたちの親の中には、ネットの情報を見て焦っている人がかなりいる。
- 「このままで大丈夫なのか?」
- 「学校に行かなくてもいいって言うけど、本当にそれでいいのか?」
でも、こうした焦りが、子どもをさらに追い詰めてしまうこともある。 そして、子どもたち自身も「自分の将来は大丈夫なのか?」と、不安を抱えているかもしれない。
不登校は「逃げる選択肢」ではなく、「新しい生き方の模索」でもある。 大人がまず、この認識をしっかり持つことが必要だ。
4. 親が焦る理由と、その対応
不登校の子どもを持つ親の多くが、「学校に行かせないと将来が不安」と感じている。
その不安は決して珍しいことでも、おかしいことでもない。
親として子どもの将来を心配するのは自然な感情だし、その気持ち自体は否定するものではない。
しかし、その「不安」はどこから来ているのだろうか?
親がよく口にするのは、
- 「学歴がないと就職が難しくなるのでは?」
- 「学校に行かないと社会性が身につかないのでは?」
- 「このまま引きこもってしまうのでは?」 といったものだ。
そこで僕は、親にこんなふうに問いかける。
「学校に行ってほしいという気持ちはよくわかりますが、その理由をもう少し教えてもらえますか?」
すると、多くの親が「将来が不安だから」と答えてくれる。
では、その「将来の不安」とは具体的に何なのか?
「将来困る」と言われても、何に困るのかは人それぞれ違う。
だからこそ、僕はさらに問いかける。
「将来の何が不安なのか?」
例えば、親が「学歴がないと就職が難しいのでは?」と考えているなら、「本当に学歴がなければ生きていけないのか?」という視点で話をする。
今の時代、学歴がなくても働き方の選択肢は増えているし、大人になってから学び直すことも可能だ。
また、「社会性が身につかないのでは?」という不安に対しては、「そもそも学校に通っていたら社会性が身につくのか?」という疑問を投げかける。
職場でも人間関係が合わなければ転職を考えるのが自然なように、子どもにとっても、学校が合わなければ別の選択肢を考えるのは当然ではないだろうか?
また、親に対してはこんな問いかけもしている。
「40度の熱があるときに仕事に行けと言われたら、どう感じますか?」
子どもにとって学校がしんどいというのは、それくらい過酷な状況なのかもしれない。
不登校は、「休むことが必要な状態」なのだ。
だからこそ、無理に学校に行かせるのではなく、まずは親自身が「なぜ行かせたいのか」を整理し、子どもの状態を理解することが大切だ。
5. 子どもの不安と向き合う
子ども自身も、「このままでいいのか?」と不安を感じることがある。
そんなとき、大人ができることは何か?
まず、子どもが「将来が不安」と言ったとき、「何が不安なのか?」をしっかり聞き取ることが大切だ。
例えば、子どもが「勉強が遅れているのが不安」と言った場合、僕はこう伝える。
「どうしても勉強したいなら一緒にしよう。でも、今それもしんどいなら、今じゃなくてもいいよ。」
心に余裕がない状態で勉強しても、頭には何も入らない。本当に前向きになったときに勉強すれば、取り戻すことはできる。
また、「友達がいないのが不安」と言われたら、
「まずなすびがいるやん!」
と笑顔で伝えた上で、
「今の学校で無理に作る必要はない。ネットでもいいし、好きなことを見つけたら、そこで自然と気の合う人と出会えるよ。」
と伝える。
無理に焦って友達を作ろうとしても、本当に気が合う人とは出会えない。
むしろ、自分の興味があることを深めていけば、そこで出会う人とは自然と仲良くなれる。
だからこそ、焦らずに「今の自分ができること」に目を向けることが大切だ。
6. 不登校の子どもにとって安心できる環境の作り方
- フリースクールや居場所の確保:地域のフリースクールや居場所づくりを活用し、子どもが安心して過ごせる場所を見つける。
- 親子で考える「自分らしい学び方」:「学校復帰」にこだわらず、子どものペースや希望を尊重した新しい学び方を一緒に探る。
- 信頼できる大人とつながる機会を増やす:親だけで抱え込まず、親戚、カウンセラー、支援者など、信頼できる第三者との関わりをつくる。
- 情報に惑わされない:インターネットやメディアの情報に過剰に反応せず、自分たちの状況に合った方法をじっくり考える。
そして何より大切なのが、「親自身が心に余裕を持てるようになること」だ。
実際に、親が安心して落ち着いた心で過ごせるようになったことで、子ども自身も自然と前向きになったケースは数多くある。
親が孤独にならないためにも、親自身が安心して話せる場所(親の会やサポートグループ)を持つことが大切だ。
親同士が悩みや気持ちを共有し合い、心の余裕を持てるようになることで、子どもにとっても居心地のよい環境を作りやすくなる。
親が前向きになれば、子どもも自然と前を向けるようになる。
不登校支援は、子どもだけではなく親も含めた「家族全体」の安心づくりが重要だ。
7. 親の不安を整理する
親が子どもの不登校に不安を感じるのは自然なことだ。
しかし、その不安をそのまま子どもにぶつけてしまうと、逆に子どもを追い詰めてしまうこともある。
親自身がまず「自分は何を不安に感じているのか」を整理することで、子どもへの関わり方も変わってくる。
大切なのは、「不安だから学校に行かせる」という単純な答えではなく、「子どもが安心できる環境を一緒に作っていこう」という視点を持つことだ。
子どもたちが自分自身を追い詰めることなく、安心して生きていける環境を作るために、大人ができることを今一度考えていきたい。
完全訪問型フリースクール”なすび”をもっと見る
購読すると最新の投稿がメールで送信されます。
コメント